退職金・老後資金積立

役員退職金、経営セーフティー共済、企業型確定拠出年金

法人の代表者や役員が退任した際に会社から受ける役員退職金(役員退職慰労金)

 

法人の代表者・役員は、退任するときに法人から役員退職金をもらうこともできます。

 

役員退職金を受け取る際は、次のとおり退職所得控除額が大きくなります。

・退職所得控除額の計算式

(1)勤続年数20年以下の場合
退職所得控除額=40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は、80万円)

(2)勤続20年超の場合

退職所得控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)

(注)勤続年数に1年未満の端数があるときは1年に切り上げます。

また、役員勤続年数が5年超の場合は「役員退職慰労金の額-退職所得控除額」の全額ではなく2分の1が退職所得の金額となります。

さらに、退職所得は他の所得と分離して課税されます。

住民税も所得税と同様に計算した退職所得金額に住民税率を掛けて算出されます。

以上のように、退職所得は、給与所得に比べて所得税・住民税が少なくなるように優遇されています。

 

法人が役員退職金を払った場合、不相当に高額な部分の金額(法人税法第34条第2項)を除き、原則として損金算入されます。

したがって、法人が支払うべき法人税等も節約できます(法人に課税所得がある場合)。

 

なお、役員給与と違って、役員退職金には社会保険料(会社負担分および本人負担分)はかかりません。

 

退任時(や在任中の死亡時)に会社から退職金を支給できるようになることは、法人設立によるメリットの一つです。

 

例えば、一般的な功績倍率方式に基づいた役員退職金制度を設けた場合なら、在任中の最終報酬月額が10万円であったとしても、30年間法人代表者として勤務した人の役員退職金を計算すると900万円近くとなります。

・最終報酬月額10万円×役員在任年数30年×役位別功績倍率2.9=870万円

(役位別功績倍率は例示です)

この場合、他に退職所得扱いとなるものがなければ十分退職所得控除額の範囲内ですので、受け取った本人の所得税・住民税負担は増えません。

 

法人契約の経営セーフティー共済は役員退職金積立としても活用できる

 

「経営セーフティー共済」(中小企業倒産防止共済)は、小規模企業共済と同じく独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しているものです。

これは、取引先が倒産した場合に、そのあおりを受けて自社が連鎖倒産したり経営難に陥ることを防ぐために、毎月掛金を積み立てておくというものです。

 

経営セーフティー共済は、個人が入ることも法人が入ることもできます。

ただし、入れるのは事業継続1年以上経ってからです。

法人が複数ある場合は、各法人が1契約入れます。

共済掛金は月額5千円から20万円の間で5,000円単位で自由に設定できます。

法人が払った共済掛金は全額損金算入できますので、法人税等の節税になります(法人に課税所得がある場合)。

 

掛金の前納もできます(1年以内の前納掛金も、払い込んだ期の損金に算入できます)。

掛金は、掛金総額が800万円になるまで積み立てることができます。

加入後も掛金の増額・減額ができます。

 

経営セーフティー共済を契約しておくと、取引先事業者が倒産したことにより売掛金債権等の回収が困難となった場合には、共済金の借入れ(無担保・無保証人)が受けられます。

借入金の限度額は、被害額と納付した掛金総額の10倍に相当する額とのいずれか少ない額となります。借入額は原則、50万円から8,000万円で5万円単位の額となります。

 

取引先事業者が倒産していなくても、臨時に事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借入れできる「一時貸付金」もあります。

 

任意解約した場合でも、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば掛金全額が戻ります(12か月未満は掛け捨てとなります)。

 

法人が経営セーフティー共済を契約することにより、将来解約した際に法人が受け取った解約手当金を役員退職金に充てることもできます。

解約手当金(益金)全額を、法人から代表者・役員に支払う役員退職金(損金)に充てれば、法人税等はかかりません(役員退職金として不相当に高額な部分の金額がない場合)。

 

退職金を受け取った代表者・役員も、前述の退職所得控除等のメリットを受けられますので、控除額の範囲内であれば所得税・住民税はかかりません。

 

掛金総額800万円までという上限はありますが、「経営セーフティー共済」を法人が契約することで、節税しながら、いざというときのための資金調達準備・退職金積立ができるようになります。

 

(比較)個人事業主・フリーランスが経営セーフティー共済掛金を払った際も、事業所得の収入を得るための必要経費に算入できます。しかし、個人事業主・フリーランスは自身に対する退職金の必要経費算入が認められていません。ですから、赤字となる年や解約手当金分の必要経費を使う年に解約しなければ、所得税・住民税の増加につながることとなります。

 

企業型確定拠出年金(選択制確定拠出年金)とは

 

企業型確定拠出年金とは企業年金の一つで、企業が支払う掛金は確定しているものの、役員・従業員が将来もらう老齢給付金は運用実績に応じて変わり、いくらもらえるか確定していない、というものです。

個人型確定拠出年金(iDeCo)と同じ確定拠出年金ですが、掛金は会社が払います。

会社が払った掛金は、信託銀行等資産管理機関の個人別の確定拠出年金口座にて管理されます。

個人別に管理された掛金をどのような金融商品で運用するかを役員・従業員自身の判断で選びます。
60歳時点で通算加入者等期間が10年以上ある場合なら、60歳から老齢給付金をもらう権利が生じます(老齢給付金をもらい始めるのを最高70歳まで遅らせることができます)。

改正により、2022年5月からは加入可能年齢の上限が65歳未満から70歳未満に引き上げられます(厚生年金に入っていれば、65歳以上70歳未満の人も加入できるようになります)。

また、2022年4月からは、受給開始時期を最高75歳まで遅らせることができるようになります。

 

個人で加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)とは異なり、企業型確定拠出年金は会社単位で加入し、原則として厚生年金に入っている人全員が加入できるものです。

 

この企業型確定拠出年金には、「選択制」といわれるタイプのものもあります。

これは、代表者・役員や従業員の老後資金準備のための福利厚生制度を企業単位で導入するものの、企業型確定拠出年金を利用するかどうかや掛金額の設定を、代表者・役員・従業員が一人ひとり自由に選べる、というものです。

選択制確定拠出年金を含む企業型確定拠出年金は、法人が掛金を支払ったとき、掛金を運用している間、老齢給付金を受け取ったとき、のいずれにおいても税法上の優遇措置を受けることができます。

 

1.法人が掛金を支払った時

法人が払った掛金は全額損金算入されます。

また、掛金は本人の給与所得にかかる収入金額に含まれないため、所得税・住民税はかかりません。社会保険料(会社負担分・本人負担分)もかかりません。

なお、加入者ごとの掛金月額の上限は原則として年額66万円(月額55,000円)です。

 

(比較)個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象です。

 

2.掛金を運用している間
利息・運用益が生じても、非課税です。
(個人別管理資産には特別法人税1.173%が課税されることとなっています。ただし、特別法人税の課税は凍結が続いています。)

 

3.老齢給付金を受け取った時
老齢給付金は、規約の定めるところにより、一時金、年金、または一時金・年金年金併用で受け取ります。

一時金でもらうと、退職所得となります。

前述の通り、退職所得は給与所得に比べて、所得税・住民税負担が軽減されるメリットがあります。

一方、老齢給付金を年金でもらうと、雑所得(公的年金等扱い)となります。

 

企業型確定拠出年金(選択制確定拠出年金)も確定拠出年金ですから、将来もらえる給付額は確定ではなく運用次第で変わります。

ただ、運用商品の選択に自信がない場合は、利回りは高くないものの元本を割る危険がない定期預金などの商品を選ぶこともできます。

利息・運用益がほとんど出なかったとしても、毎月5.5万円を役員給与としてもらって税金・社会保険料が引かれた後の手取給与の一部を定期預金にあてるよりも、有利となります。

 

また、毎月5.5万円給与月額を上げるのと異なり、所得税・住民税も増えません。

法人にとっても給与月額を5.5万円上げる場合に比べ、選択制確定拠出年金を導入して月額5.5万円を掛金に充てる場合の方が、社会保険料の会社負担分が不要なだけ会社の経費負担額が少なくなります。

 

ただ、一般に、制度の導入時には初期費用がかかります。継続費用もかかります。

制度導入にあたっては、初期費用・継続費用を確認しておくことが大事です。

 

また、原則60歳までは掛金の引き出しができません。

一度入ると原則としてやめられないことにも十分注意が必要です。

 

なお、標準報酬月額が下がる程度まで報酬月額を引き下げて、引き下げた分を選択制確定拠出年金の掛金にあてる場合は、将来もらう年金額や傷病手当金・出産手当金などの支給額が減るデメリットがあります。

 

(注)2020年度現在、企業型確定拠出年金加入者は規約の定めがないと個人型確定拠出年金(iDeCo)には入れません。

しかし、法改正により2022年10月以降企業型加入者は、規約の定めがなくても、拠出限度額(月額5.5万円)から事業主掛金を控除した残りの範囲内で個人型にも入れるようになります(個人型の拠出限度額は原則として(月額2万円)です)。

また、企業型確定拠出年金の会社掛金にプラスして本人が掛金を払う「マッチング拠出」を利用できる場合は、個人型確定拠出年金(iDeCo)との選択が可能になります。

 

公的年金等にかかる雑所得の金額

 

障害基礎年金・障害厚生年金や遺族基礎年金・遺族厚生年金は非課税ですが、老齢基礎年金、付加年金、老齢厚生年金、国民年金基金の老齢年金、小規模企業共済の共済金を分割で受け取る場合、個人型確定拠出年金(iDeCo)・企業型確定拠出年金の老齢給付金を年金で受け取る場合などは、雑所得として所得税がかかります。

公的年金等の収入金額の合計額から公的年金等控除額を差し引いた額が雑所得の額となります。

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