公的年金の次回財政検証結果の公表は令和6年に行われる予定です。
財政検証結果を受けて次回年金改正法は令和7年に公布されることが予想されます。
自民党の「総合政策集2022 J―ファイル」から読み取れる今後の改正の議論の方向性については、
先月お伝えしました。
今後の年金法改正の方向性について国がどのような考え方をしているかは、
厚生労働省が公表している「年金制度の仕組みと考え方」から読み解くことが
できます。
これまでのところ、以下の内容が公表されています。
第1 公的年金制度の意義、役割
第2 公的年金制度の体系(被保険者、保険料)
第3 公的年金制度の体系(年金給付)
第4 公的年金制度の財政方式
第5 公的年金制度の歴史
第6 平成16年改正年金財政フレームと財政検証
第7 マクロ経済スライドによる給付水準調整期間
第8 平均余命の伸長と年金
第9 被用者保険の適用拡大
第10 在職老齢年金・在職定時改定
第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給
第14 年金資金運用
昨年末に第1・第2・第4・第5が公開された後、本年3月に第6が公開されました。
その後、本年6月にそれらすべてが更新され、さらに、第3、第7~11、第14が公開されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi.html
それぞれかなり詳しい記述がされており、これらを読む国民が増えれば、
年金財政等についてインターネット上などで散見される根拠のない誤解も減ると思います。
しかしながら、特に第4・第6・第7などはかなり難解な内容となっていますので、
専門家でない一般の方にはわかりにくい箇所が多いかと思われます。
今日はこの「年金制度の仕組みと考え方」の本年6月に新たに掲載された内容から、
今後の改正に関する記載で一般の方にとって関心があると思われる記述をピックアップしてポイントを紹介します。
●在職老齢年金制度については、今のところ、次のように令和2年改正前の議論の整理が記載されているのみです。
次回財政検証を経て、再度議論・検討が行われる可能性があります。
「また、高在老(奥野注:65歳以降の在職老齢年金)については、令和2年改正では見直しは行われなかった。
2019年財政検証結果を踏まえた議論・検討の過程では、高齢期の就労が多様化する中、
高在老の在り方を見直すべきとの意見もあった。
他方、在職老齢年金制度の撤廃又は基準額の緩和は、
見直しによる就労の変化を見込まない場合、将来世代の所得代替率を低下させることが 2019 年財政検証結果でも確認されていること、
高在老の適用基準 47 万円の対象者は、年金と賃金を合計すれば比較的所得に余裕があり、単純な見直しは高所得高齢者の優遇となるという観点等から、
見直しに否定的な意見もあった。
結論として、高齢期の就労と年金をめぐる調整については、
税制での対応や各種社会保障制度における保険料負担等での対応を併せて、
今後とも検討していくべき課題であると整理された。」
●令和元年の財政検証結果を踏まえ、令和2年改正法附則や衆参両議院での附帯決議において検討課題とされていた
「基礎年金拠出期間の45年化」の厚生年金保険加入者への影響や課題については、次の通り明記されています。
「基礎年金の底上げを図り、高齢期の経済基盤をさらに充実させることを目的として、健康寿命と就労期間の延伸を踏まえ、
国民年金の被保険者期間を20歳から64歳とすることで、 基礎年金の拠出期間を 45 年に延長するものである。
拠出期間 45 年化により、国民年金の 第 1 号被保険者については、現状より 5 年長く国民年金保険料を拠出すること
になる。
なお、厚生年金については、現状でも 69 歳まで被保険者であるため、60 歳以降も被用者として厚生年金に加入する人
については、基礎年金 45 年化による追加の保険料負担は生じない。
現行制度では、1階部分の給付に結び付くのは制度上40 年間に限られており、60 歳以降も厚生年金保険料を負担していても、
報酬比例の給付にしか結びつかない場合がある。
(奥野注:
現行制度では、60歳以降厚生年金保険に加入しても、老齢基礎年金額には反映しません。
また、60歳到達月の前月までに厚生年金保険に加入した期間が480月以上ある人は、
60歳到達月以降厚生年金保険に加入し続けたとしても、老齢厚生年金の経過的加算部分は増えず、報酬比例部分しか増えません)
基礎年金の45 年化は、この老齢基礎年金の給付に結びつかない期間を減らす効果があり、
長く働く意欲につながるとともに、所得再分配効果の高い1階の基礎年金部分を充実する意義がある。
一方、基礎年金 45 年化に当たっては、延長部分の国庫負担2分の1相当分の財源をどのようにして確保するかが課題となる。」
●支給開始年齢引上げの議論については、次の通り明確に否定されています。
「平均余命の伸長に伴い高齢者の就業率が上昇している実態を踏まえ、
保険料収入の増加による将来的な給付水準の維持・向上を図ることを目的に、
現在 65 歳で固定されている支給開始年齢の引上げを検討すべきではないかとの議論が一部にあるが、
平成 16(2004)年改正で導入された財政スキームの下では、支給開始年齢の引上げよりも、
個人の選択で繰下げ受給を選択する仕組みの方が適切である。」
「個人が繰下げ受給により増額する場合、繰下げの効果は、直接、その個人に還元される。
一方、支給開始年齢を引き上げると、将来世代の給付を削減したことにより確保された財源 の一部が、
マクロ経済スライドの早期終了により、現在年金を受給している人にも分けられることになる。
すなわち、将来の世代の年金を削減したことにより得られる財源が、
現在年金を受給している人にも分けられることとなり、
世代間の公平性の観点から課題があると考えられる。」
●短時間労働者への厚生年金保険・健康保険のさらなる適用拡大については、
令和2年改正法附則の検討規定や国会の附帯決議に沿って、
「企業規模要件の早期の撤廃も含め、さらなる適用拡大に向けて検討していくこととなっている。」
と記載されています。
また、現在「個人事業所についての残る非適用業種には、
農林水産業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービスの一部などがある」ことについても、
見直しを含めたさらなる適用拡大に向け「検討を進めることとなる。」と明記されています。
●私事ですが、私(奥野)が平成11年(1999年)7月に社労士・FPとして開業してから23年が経ちました。
23年の間に年金・社会保険に関して、大きな改正がいくつもありました。
在職老齢年金制度だけに限っても、改正に次ぐ改正の連続でした。
開業当時は、今と違って国による公的年金に関する情報提供が十分に行われていませんでした。
ですから、金融機関の年金相談会等で出会う方の中には、年金をもらえることを知らずに請求して
いなかった人も結構おられました。
平成17年(2005)年10月になってやっと、年金請求書が事前に本人に送られてくるようになりましたので、国の年金の請求漏れはかなり減りました
平成21年(2009)年4月からは、国民年金・厚生年金保険に加入中の全員に対して毎年誕生月に「ねんきん定期便」が送られてくるようになりました。
平成23(2011)年2月には年金記録を確認できるしくみとして「ねんきんネット」が開設され、同年10月からは「ねんきんネット」で年金見込額試算ができるようにもなりました。
令和3年度からは、「ねんきん定期便」の一般厚生年金期間分の報酬比例部分の年金額には、基金代行額も含めて記載されることとなりました。
令和4年度からは、公的年金シミュレーターの試験運用が開始され、また、65歳以降の老齢年金未請求者に毎年「年金見込額のお知らせ」が届くようになりました。
昔と違って今は、自身の老齢年金に多くの人が関心を持つように、また、請求漏れや誤解がなくなるように、非常に丁寧に、様々な情報提供が日本年金機構により行われています。
しかし、制度への誤解から請求していなかったり、提供された情報を誤解してしまって残念な思いを
しておられる方は今でも少なくありません。
令和4年度は、65歳までの在職老齢年金基準額の引き上げや、65歳からの老齢厚生年金の在職定時改定、65歳からの年金の繰下げ・繰上げの改正、加給年金額支給停止要件の改正など、大きな改正が多く施行されることとなりましたので、改正内容について誤解されている方からの相談も多くなっています。
次回年金改正における検討課題等についても、今後新聞・雑誌やインターネット上等で取り上げられることが増え、それらを目にした方からの相談も増えてくると予想されます。
今後も情報提供・相談対応・コンサルティング対応等に力を注いでいきたいと考えています。