もくじ
65歳からの年金のもらい方には4つある
年金を繰上げしないで65歳になったら、65歳からの年金のもらい方には、次の4通りがあります。
1.老齢基礎年金・老齢厚生年金とも原則通り65歳からもらう
2.老齢厚生年金のみ原則通り65歳からもらい、老齢基礎年金のみ66歳以降70歳までの任意の時点(月単位)まで繰下げてもらう
3.老齢基礎年金のみ原則通り65歳からもらい、老齢厚生年金のみ66歳以降70歳までの任意の時点(月単位)まで繰下げてもらう
4.老齢基礎年金・老齢厚生年金とも66歳以降70歳までの任意の時点(月単位)まで繰下げてもらう
年金の「繰上げ」は、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金を一緒に繰上げる、というものです。
それに対し、年金の「繰下げ」は、老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに繰下げる(4)こともできますし、どちらか片方だけを繰下げる(2・3)こともできます。
65歳までの年金の請求手続きを行った人のもとには、65歳の誕生月の初めごろまでに、簡易なハガキ形式の年金請求書が日本年金機構から郵送されてきます。
65歳からはもらえる年金が変わるため、もう一度年金をもらうための請求手続きを行うわけですね。
1、2、または3を希望する人は、65歳からの年金請求書(ハガキ)に必要事項を書いて返送します。
4を希望する人は、年金請求書(ハガキ)を返送しないこととなっています。
繰下げた年金をもらいたいときは、66歳以降の任意の時点で繰下げ申出手続きを行います。申出をした翌月分から、増額された年金をもらうこととなります。つまり、何歳まで繰下げるかを事前に決めておく必要はありません。
老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに繰下げる場合(4)、両方同時に繰下げ申出することも、それぞれ別々に繰下げ申出することもできます。
(注)老齢基礎年金・老齢厚生年金といっしょにもらうことができない「他の年金」を66歳になるまでにもらえるようになった人は、繰下げできません。
繰下げ受給から約12年以上生きれば、繰下げした方が得
65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰下げると、繰下げ月数×0.7%だけ年金額が増額されます。
65歳からの年金を70歳まで繰下げると、「65歳からの年金額×1.42倍(繰下げ月数60月×0.7%)」の年金を70歳から一生涯もらうことができます。
例えば、65歳から老齢基礎年金・老齢厚生年金合計で年額200万円もらえる人なら、70歳まで繰下げると、70歳から284万円(200万円×1.42)の年金をもらえます。
繰下げによる増額対象となるのは、65歳時点の年金額です。
65歳以降厚生年金に入った分は繰下げ増額されません。
(その分の加入記録は、退職して1月経ったときか、70歳になったときに年金額に反映します。)
65歳からの年金を繰下げた方が得か、繰下げない方が得か、という質問をよく受けます。
単純計算で損益分岐点となる年齢を計算すると、繰下げ受給してから11年11か月以上生きると、繰下げた方が、累計の年金受給額は多くなります。
例えば、
66歳まで繰下げ(1年繰下げ)→77歳11か月以上生きたら、繰下げした方が累計の年金受給額は多くなる
67歳まで繰下げ(2年繰下げ)→78歳11か月以上生きたら、繰下げした方が累計の年金受給額は多くなる
68歳まで繰下げ(3年繰下げ)→79歳11か月以上生きたら、繰下げした方が累計の年金受給額は多くなる
69歳まで繰下げ(4年繰下げ)→80歳11か月以上生きたら、繰下げした方が累計の年金受給額は多くなる
70歳まで繰下げ(5年繰下げ)→81歳11か月以上生きたら、繰下げした方が累計の年金受給額は多くなる
(今後の年金額改定は考慮していません。)
65歳からの平均余命は、男性で19.57年、女性で24.43年です。(平成29年簡易生命表より)
ですから、もし65歳からの平均余命程度の年数を生きるとすれば、70歳まで5年繰下げした男性でも、繰下げせずに65歳からもらうよりも、繰下げした方が年金額総額は多くなるといえます。
ただ、自分が何歳まで生きるかはわかりませんので、繰下げの損得は事前にはわかりません。
老齢厚生年金の繰下げと加給年金額
なお、老齢厚生年金を繰下げしている間は、加給年金額の対象となる配偶者や子がいても、加給年金額はもらえません。
ですから、加給年金額ももらえる人が老齢厚生年金を繰下げると、損益分岐点となる年齢は上記よりもさらに先になります。
このことから、老齢厚生年金の繰下げよりは、老齢基礎年金の繰下げの方を優先して検討すべきことが多いでしょう。
年金の繰下げと所得税
なお、65歳以上の人でその年の国からの老齢年金支払額が158以上の場合、
所得税(および復興所得税)が源泉徴収される可能性があります。
(「扶養親族等申告書:を提出することにより、各種控除が受けられます。)
ですから、最大70歳まで繰下げて額面の年金額が1.42倍となっても、税金が増える分を差し引いた手取りの金額は1.42倍よりも少なくなります。
繰下げをして年収・所得が増えることによって、社会保険料(65歳からの介護保険料や退職後の国民健康保険料)や医療・介護を受けた場合の一部負担金が増える可能性もあります。
額面の年金額だけに基づいた繰下げの損益分岐点年齢は、あくまでも目安程度にご利用ください。
繰下げるつもりでいたものの、繰下げをやめることもできますか?
65歳からの本来の老齢基礎年金・老齢厚生年金の合計額が年額200万円の人が、70歳まで繰下げて年額284万円に増額された年金をもらうつもりをしているとします。
ところが、例えば69歳になった時点で、何らかの事情でまとまったお金が必要となった場合は、繰下げしないで、本来の年金額(繰下げ増額されない年金額)200万円×4年分を一時金でもらうこともできます。
この場合、その後も、本来の年金額(繰下げ増額されない年金額)200万円をもらい続けることとなります。
年金を繰下げるつもりの人がもらう前に亡くなったら、年金はどうなりますか
例えば、65歳からの本来の老齢基礎年金・老齢厚生年金の合計額が年額200万円の人が、70歳まで繰下げて年額284万円に増額された年金をもらうつもりをしているとします。
ところが、年金をもらう前にこの人が69歳で亡くなったとします。
この場合、生計を同じくしていた遺族(配偶者がいれば配偶者)が、本来の年金額(繰下げ増額されない年金額)200万円×4年分を未支給の年金として一時金でもらうことができます。
(69歳まで繰下げて増額された年金をもらえるのではありません。)
繰下げ申出後に亡くなったら、年金はどうなりますか?
例えば、65歳からの本来の老齢基礎年金・老齢厚生年金が年額200万円の人が、70歳まで繰下げて年額284万円に増額された年金をもらうつもりをしているとします。
ところが、何らかの事情で69歳になった時点で繰下げ申出をしたとします。
この人が亡くなった場合も、生計を同じくしていた遺族(配偶者がいれば配偶者)が未支給の年金をもらうことはできます。
ただし、この場合の未支給の年金は、繰下げ申出をした翌月分以降の年金だけです。
なくなった人が繰下げ申出した月(69歳になった月)分までの4年分の年金を遺族がもらうことはできません。
もちろん、要件を満たせば、遺族厚生年金は支給されます。
遺族厚生年金(「中高齢寡婦加算」を除く)は、基本的には、死亡した人の「老齢厚生年金(報酬比例部分)に相当する額の4分のです。
繰下げ増額された年金額の4分の3ではありません。
また、経過的加算部分は含まず報酬比例部分のみの4分の3です。
65歳からも高額の給料をもらう人は、老齢厚生年金の繰下げには注意
65歳以降一定額以上の給料をもらう人の場合は、老齢厚生年金の繰下げを検討する前に注意が必要です。
というのも、年金と給料との調整のしくみ(在職老齢年金。)によって老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給停止になる人の場合は、支給停止となる部分については、年金を繰下げても年金額はまったく増えないからです。
報酬との調整で支給停止となるのなら、いま今もらえなくてもよいから繰下げて後から増額された年金をもらおう、と誤解している人もいますので、注意が必要です。
以上、年金の繰下げについてみてきました。
60歳以降も厚生年金に入って働くことで65歳時点の老齢厚生年金額を増やすことができますので、繰下げの対象となる年金額が増えます。
65歳まで働いて給料をもらうことで、預貯金や退職金を大きく取り崩さなくて済みますので、65歳からの年金の繰下げを検討する経済的な余裕もできるでしょう。