もくじ
60歳以降も厚生年金に入って働くことによるメリット3つ
60歳以降も厚生年金に入って働くことによるメリットは、次の3つです。
1.将来もらえる年金額が増えます。
2.健康保険にも入り続けられます。
3.扶養している配偶者が将来もらえる年金額も増えます。
60歳以降も厚生年金に入って働くことによるデメリット3つ
また、厚生年金に入って働くことによるデメリットとして、よく挙げられるのは、次の3つです。
1.厚生年金保険料・健康保険料がかかります。
2.年金額・給料額によっては、年金がカットされます。
3.健康保険の被扶養者にはなれません。
メリット1:将来もらえる年金額が増えます。
60歳以降も厚生年金に入って働くメリットの一つ目は、将来もらう年金額が増えることです。
厚生年金に長く入れば入るほど、後でもらう年金額が増えます。
厚生年金に入って働き続けると、どの年金がどのように増えるのでしょうか。
特別支給の老齢年金(報酬比例部分)や老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額が増える
65歳までの特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)や65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額は、次の計算式で算出されます。
・平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの厚生年金に入った期間の月数
+平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月からの厚生年金に入った期間の月数
60歳以降も厚生年金に入って働くと、計算式の中の「平成15年4月からの厚生年金に入った期間」の月数が増えますので、報酬比例部分の年金額が増えます。
厚生年金には最高70歳まで入れますので、60歳から70歳になるまでの間で厚生年金に入った期間分だけ厚生年金に入った期間の月数が増え、年金額が増えます。
例えば、64歳から特別支給の老齢厚生年金をもらえる人が、60歳から65歳になるまでの5年間、給料月額30万円(ボーナスなし)で厚生年金に入って働き続けたらどうなるでしょうか。
まず、60歳から64歳になるまでの48月厚生年金に入ることによって、64歳からの特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は、74,585円増えます。
(30万円×0.945×5.481/1,000×48月)
さらに、65歳になるまでの12月も引きつづき厚生年金に入ることによって、65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)は、93,232円増えます。
(30万円×0.945×5.481/1,000×60月)
(注)0.945という数字は、毎月の給料月額を再評価して平均標準報酬額を計算する際に用いられる「再評価率」です。(再評価率は毎年度今後変わる可能性があります)
65歳までの年金はこの人の場合64歳から1年間分もらうだけですので、74,585円増えるだけです。
一方、65歳からの年金は終身もらえる年金です。
この人の場合は、65歳からの年金は毎年93,232円増えますので、もし85歳までの20年間年金をもらうとしたら、もらえる年金額累計は1,864,640円(93,232円×20年)増えることとなります。
95歳までの30年間年金をもらうとしたら、もらえる年金額累計は2,796,960円(93,232円×30年)増えます。
もし、64歳になるまでだけ厚生年金に入って働き64歳でリタイアするか、その後は厚生年金に入らないで働くなら、64歳時も65歳からも、報酬比例部分の年金額は74,585円のみの増額です。
60歳でリタイアするか、その後は厚生年金に入らないで働くなら、64歳時の年金も65歳からの年金もまったく増えません。
(質問1)
・60歳以降も平均月収(ボーナスを含む)給料月額X円で厚生年金に入って働いたら、「65歳まで」の報酬比例部分の年金額はいくら増えますか?
(答え1)
増える年金額は次の通りです。
・平均月収(ボーナスを含む)給料月額X円×0.945×5.481/1,000×60歳になる月から特別支給の老齢厚生年金をもらえる年齢になる月の前月までの厚生年金に入った期間の月数
(質問2)
・60歳以降も均月収(ボーナスを含む)X円で厚生年金に入って働いたら、「65歳から」の報酬比例部分の年金額はいくら増えますか?
(答え2)
・平均月収(ボーナスを含む)給料月額X円×0.945×5.481/1,000×60歳になる月から65歳になる月の前月までの厚生年金に入った加入期間の月数
(質問3)
・60歳以降も平均月収(ボーナスを含む)給料月額X円で厚生年金に入って働いたら、「70歳から」の報酬比例部分の年金額はいくら増えますか?
(答え3)
・平均月収(ボーナスを含む)X円×0.945×5.481/1,000×60歳になる月から70歳になる月の前月までの厚生年金に入った加入期間の月数
(注)
上記試算は概算試算簡易試算です。
60歳以降給料月額いくらで何歳まで働くこととしたら、60歳でリタイアする場合に比べて年金がいくら増えるかは、実際には、年金事務所の年金相談で試算してもらうか、「ねんきんネット」で試算して確認するようにしましょう。
なお、「60歳前に比べて給料が下がった状態で働くと、年金が減るから損ですよね。」との質問を受けることがよくあります。
しかし、年金は、退職する直前の給料だけに基づいて計算されるわけではありません。
60歳以降給料が下がった状態で厚生年金に入ったとしても、厚生年金に入った加入期間の月数は増えますので、将来もらえる年金額は増えます。
60歳以降厚生年金に入っても、老齢基礎年金額はもう増えない
65歳からもらえる老齢基礎年金の年金額は、20歳以上60歳未満の40年間(480月)のうちの何月公的年金に入って保険料を納めたか、によって決まるのが原則です。
・老齢基礎年金額=満額の老齢基礎年金額×20歳以上60歳未満の間で公的年金に入って保険料を納めた月数÷480月
(国民年金保険料を免除された期間がない人の場合)
60歳以降厚生年金に入っても、もう老齢基礎年金額は増えません。
国民年金に60歳以降任意加入して老齢基礎年金を増やすことはできる。付加保険料を払って付加年金をもらうこともできる。
(注)60歳以降厚生年金に入らない人で、このままでは満額の老齢基礎年金をもらえない人が、国民年金に任意加入して老齢基礎年金を増やすことはできます。
(最高65歳まで入れます。ただし、65歳前に20歳以上の公的年金に入った加入月数が480月となったときは、そのときまで)国民年金に任意加入する場合、国民年金保険料だけでなく付加保険料(月額400円)も払って、65歳から付加年金(老齢基礎年金の上乗せの年金。付加年金額は、200円×付加保険料納付月数。)をもらうこともできます。
60歳以降厚生年金に入ることで経過的加算部分が増える人も多い
65歳からの老齢厚生年金には、「報酬比例部分」以外に、「経過的加算部分(差額加算)」もあります。
・老齢厚生年金=老齢厚生年金(報酬比例部分)+老齢厚生年金(経過的加算部
20歳から60歳になるまでの40年間ずっと厚生年金に入って働いていたため、その期間だけで65歳から満額の老齢基礎年金(779,300円)をもらえる人の場合、
経過的加算部分の年金額は700円と少額です。
そのような人が60歳以降厚生年金に入っても、もう経過的加算額の年金額は増えません。
しかし、20歳から60歳になるまでの40年間に厚生年金に入らなかった月がある人が、60歳以降も厚生年金に入ると、
経過的加算額は700円よりも増えます。
老齢厚生年金(経過的加算部分)の年金額は、次の計算式で算出されます。
老齢厚生年金(経過的加算部分)
=「定額部分」に相当する額-厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金額
「定額部分」は次の計算式で算出されます。
・「定額部分」=1,625円×厚生年金に入った期間の月数
・1,625円という数字は、毎年度改定されます。
・民間会社に勤務した厚生年金に入った期間の月数が480を超える場合は、480として計算します。
「定額部分」とは、もともとは、65歳までの特別支給の老齢厚生年金としてもらえる年金のことです。
ただし、これから特別支給の老齢厚生年金をもらえる年齢になる人は、「定額部分」をもらえないのが原則です。
しかし、65歳からの「経過的加算部分」の年金額を計算するためには、
65歳までの「定額部分」の計算式を知っておく必要があります。
また、「厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金額」は、次の通りです。
・「厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金額」
=老齢基礎年金の満額779,300円×昭和36年4月1日以後で20歳から60歳になるまでの480月のうち厚生年金に入っていた月数/480
(例1)18歳で高校卒業後60歳になるまでずっと厚生年金に入っていた人の場合
・「定額部分」に相当する額=1,625円×480月(上限)=780,000円
・「厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金の年金額」=779,300円×480月/480月=779,300円
・経過的加算部分=780,000-779,300円=700円
したがって、65歳からもらえる老齢基礎年金は779,300円、経過的加算部分は700円です。
(例2)20歳から大学卒業までの36月間国民年金に任意加入せず、22歳で大学卒業後60歳になるまでの444月厚生年金に入っていた人の場合
・「定額部分」に相当する額=1,625円×444月=721,500円
・「厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金額」=779,300円×444月/480月=720,853円
・経過的加算部分=721,500円-720,863円=647円
したがって、65歳からもらえる老齢基礎年金は720,853円、経過的加算部分は647円円です。
この人が、60歳から36か月(「定額部分に相当する額」を計算する際の厚生年金に入った期間の月数が上限の480月に達するまで)厚生年金に入ると、
・「定額部分」に相当する額=1,625円×480月=780,000円
・「厚生年金に入っていた期間から計算される老齢基礎年金の年金額」=779,300円×444月/480月=720,853円
(60歳以降厚生年金に入っても、老齢基礎年金額は増えません。)
・経過的加算部分=780,000-720,853円=59,147円
となり、65歳からもらえる老齢基礎年金は720,853円で変わりませんが、経過的加算部分は59,147円と58,500円増えます。
このように、(昭和36年4月1日以後の)20歳以上60歳未満の40年間に厚生年金に入らなかった月がある人が、60歳以降厚生年金に入ると、
老齢厚生年金(報酬比例部分額が増えるだけでなく、
(20歳前・60歳以降の期間も含めて厚生年金加入が40年となるまでは)老齢厚生年金(経過的加算部分)額も増えます。
厚生年金に入っている間の病気・ケガによる障害厚生年金もある
(例えば)
60歳で定年退職直後に初診日のある病気やケガが原因で、障害認定日に障害等級2級になったら・・・
(報酬比例部分の年金額約120万円の場合)
【60歳以降も厚生年金に入っていれば】
障害年金が年額約220万円もらえます。
(障害厚生年金+配偶者加給年金額+障害基礎年金)
【60歳以降厚生年金に入っていないと】
もらえる障害年金は、年額約80万円となります。
(障害基礎年金のみ)
60歳までと同様60歳からも、厚生年金に入っている間に初診日のある病気やケガが原因で障害認定日(原則として初診日から1年6月経った日。)に障害等級(障害の程度が重い順に、1級、2級、または3級)に該当すると、障害厚生年金をもらう権利が発生します。
3級よりも軽い障害状態に対する障害手当金(一時金)もあります。
60歳以降厚生年金に入っていない人が、60歳以降に初診日のある病気やケガが原因で障害等級3級以上になっても、障害厚生年金はもらえません。
障害厚生年金額や障害手当金の額は、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)や老齢厚生年金(報酬比例部分)と同様の「報酬比例部分の年金」の計算式を用いて算出されます。
ただし、厚生年金に入った期間は、障害認定日がある月までで計算されます。(最低保障300月)
障害厚生年金1級:報酬比例部分の年金額×1.25(+配偶者加給年金額224,300円)
障害厚生年金2級:報酬比例部分の年金額(+配偶者加給年金額224,300円)
障害厚生年金3級:報酬比例部分の年金額(最低保障額584,500円)
障害手当金:報酬比例部分の年金額×2(最低保障額1,169,000円)
(注1)60歳以上65歳未満で国内に住んでいる人(60歳前に公的年金に加入していた人に限ります)は、厚生年金に入っていてもいなくても、
60歳以降に初診日のある病気やケガが原因で障害認定日に障害等級1級または2級になった場合には、障害基礎年金をもらう権利は発生します。
(65歳からの年金を繰上げておらず、初診日前に一定期間以上の保険料未納期間がない場合)
障害基礎年金1級:974,125円(+子の加算)
障害基礎年金2級:779,300円(+子の加算)
(注2)65歳までは、老齢年金と障害年金の両方をもらうことはできません。
両方の権利がある場合でも、どちらか一方を選択してもらうこととなります。
(注3)65歳までに障害等級2級となった場合、65歳からは、次の3つからもらい方を選べます。
・老齢基礎年金+老齢厚生年金
・障害基礎年金+障害厚生年金
・障害基礎年金+老齢厚生年金
(注4)障害厚生年金・障害基礎年金の障害等級と、身体障害者手帳の等級とは異なります。
(注5)老齢年金は雑所得として課税対象ですが、障害年金・障害手当金は非課税です。
(注6)年金をもらえる人は障害手当金をもらえません。
メリット2:健康保険にも入り続けられます。
60歳までと同様、60歳からも厚生年金にだけ入ることはできません。
60歳以降も厚生年金と健康保険はセットで入ることとなります。
(注)国民健康保険組合に加入の事業所勤務の場合は、60歳以降も厚生年金と国民健康保険に入ります。
業務外の病気やケガで働けず給料をもらえなくなったら、傷病手当金として月給の約3分の2を最高1年6月もらえます。
60歳以降も健康保険に入っていると、60歳までと同様、業務外の病気やケガによる療養のため働けなくなった期間が継続4日以上となり給料をもらえない場合には、「傷病手当金」がもらえます。
(健康保険からもらえる給付は非課税です。)
1日あたりの傷病手当金の額は、月給を30で割った額の2/3相当額です。
(正確には、支給開始日以前の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3)
支給を始めた日から起算して、1年6月を限度として支給されます。
被扶養者も全員健康保険に入れます
60歳以降も健康保険に入っている間は、60歳までと同様、生計を維持している配偶者なども被扶養者として健康保険の保険給付が受けられます。
健康保険の被扶養者については、何人いても健康保険料は0円です。
被扶養者の数が多い場合は、大きなメリットとなります。
なお、60歳以降厚生年金に入らないで、自分で健康保険だけ任意継続加入する場合でも、被扶養者も健康保険の保険給付が受けられます。
ただし、任意継続加入できるのは最長2年です。
国民健康保険には被扶養者の制度はありません。
本人だけでなく配偶者なども国民健康保険の被保険者となり、配偶者などについての保険料もかかります。
(国民健康保険料の納付義務者は世帯主です。)
メリット3:配偶者が将来もらえる年金額も増えます。
配偶者がいる場合は、配偶者の老齢基礎年金も増える可能性があります。
厚生年金に入っている65歳未満の人の被扶養配偶者(年収130万円未満などの要件を満たす人)で20歳以上60歳未満の人は、国民年金の第3号被保険者となります。
ですから、第3号被保険者となる要件を満たす配偶者がいる人が、60歳以降厚生年金に入ると、配偶者が65歳からもらえる老齢基礎年金額も増えます。
・厚生年金に1年入ることによって→妻の老齢基礎年金が2万円弱増える。
・満額の老齢基礎年金779,300円÷480月×12月=19,482円。
遺族厚生年金額について
(典型例)
60歳以降厚生年金に入っている間に夫が亡くなったら、残された妻(40歳以上)が65歳になるまでは、妻に「遺族厚生年金+中高齢寡婦加算」が年額150万円弱支払われます。
(報酬比例部分の年金額が120万円の場合)
妻が65歳からは、遺族厚生年金(妻自身の老齢厚生年金を含みます)年額90万円と妻自身の老齢基礎年金(満額なら年額約80万円)を両方もらえます。
次のいずれかに当てはまると、死亡の当時生計を維持していた(年収が850万円未満または所得が655.5万円未満の)一定の遺族に遺族厚生年金が支払われます。
1.厚生年金に入っている間に亡くなった
2.厚生年金に入っている間に初診日がある病気やケガによって、初診日から5年以内に亡くなった
3.障害等級1級または2級の障害厚生年金をもらえる人が亡くなった
4.公的年金に入った加入期間が25年以上あり、かつ、厚生年金に入った期間のある人が亡くなった
遺族厚生年金額は、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)や老齢厚生年金(報酬比例部分)と同様の「報酬比例部分の年金」の計算式を用いて算出した額の4分の3です。
・遺族厚生年金額=報酬比例部分の年金額×4分の3
ただし、厚生年金に入った期間は、死亡月の前月までで計算されます。(上記の1~3の場合は、最低保障300月)
60歳からも厚生年金に入ることは、ご自分がもらう老齢厚生年金の額を増やすだけでなく、万一のことがあった場合に遺族がもらえる遺族厚生年金の額を増やすことにもなります。
(比較)なお、公的年金に入った期間が25年に満たない人が、厚生年金に入っていない間に亡くなったら、遺族がいたとしても、上記2か3にあたらない限り、遺族厚生年金は支払われません。
(注1)遺族厚生年金の支給順位は次の通りです。
1.配偶者(妻または55歳以上の夫)および子
2.(55歳以上の)父母
3.孫
4.(55歳以上の)祖父母
死亡当時、死亡した人に生計を維持されていたこれらの人のうち最も優先順位が高い人が受け取れます。
子のある妻や子のある55歳以上の夫が遺族年金を受け取っている間は、
子に遺族年金は支給されません。
(注2)「子」とは、高校卒業までの未婚の子、または、障害等級1・2級の障害状態にある20歳未満の未婚の子をいいます。
(注3)厚生年金に入っている夫や、公的年金25年以上加入で20年以上民間会社で働いて厚生年金に入った夫などが死亡した当時妻が40歳以上の場合(または、夫死亡当時妻が40歳未満でも、40歳になったときに妻が遺族基礎年金を受けている場合)、妻が受け取る遺族厚生年金には、妻が40歳から65歳になるまでの間「中高齢寡婦加算」(584,500円)が加算されます。
(妻が遺族基礎年金を受け取ることができるときは、中高齢寡婦加算は支給停止されます。)
夫の死亡当時40歳未満で子のいない妻が40歳になっても、中高齢寡婦加算は支給されません。
(注4)65歳までは、老齢年金と遺族年金の両方をもらうことはできません。
両方の権利がある場合でも、どちらか一方を選択してもらうこととなります。
(注5)遺族厚生年金をもらえる人が65歳以上の場合は、老齢基礎年金と遺族厚生年金の両方をもらえます。65歳以上の人が遺族厚生年金も自分の老齢厚生年金も受け取る権利がある場合は、老齢厚生年金が優先して支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額まで支給停止となります。
(妻が厚生年金に入って報酬との調整で老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給停止となっても、遺族厚生年金の支給停止額は変わりません。)
(注6)子のいない30歳未満の妻が遺族となった場合は、5年で遺族厚生年金をもらえなくなります。
(注7)55歳以上の夫、父母、または祖父母が遺族厚生年金をもらう場合、実際にもらえるのは原則として60歳からとなります。
(注8)遺族年金も遺族基礎年金・遺族厚生年金の二階建てなのですが、遺族基礎年金をもらえる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた子のある配偶者、または、子に限られます。
(注9)遺族年金は非課税です。
デメリット1:厚生年金保険料・健康保険料がかかります
60歳以降も厚生年金に入って働くと、60歳までと同様に厚生年金保険料・健康保険料が給料から引かれます。
厚生年金保険料率は、18.3%です。
給料月額30万円(標準報酬月額30万円)の場合の、厚生年金保険料(月額)は、30万円×18.3%=54,900円です。
54,900円を会社と本人とが折半負担しますので、本人が負担すべき厚生年金保険料(月額)は27,450円となります。
健康保険料率・介護保険料率は、会社が入っている医療保険制度により異なります。
例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)の東京支部の平成30年度の健康保険料率(介護保険料率を含む)は11.47%です。
したがって、給与月額30万円(標準報酬月額30万円)の場合の、「健康保険料+介護保険料」(月額)は30万円×11.47%=34,410円です。
34,410円を会社と本人とが折半負担しますので、本人が負担すべき「健康保険料+介護保険料」は17,205円となります。
賞与をもらったときは、賞与にも厚生年金保険料や健康保険料・介護保険料がかかります。
賞与にかかる厚生年金・健康保険料と標準賞与額の上限
賞与にかかる保険料額は、
・「標準賞与額」(その月に受けたボーナスの合計額の1,000円未満を切り捨てた額)×保険料率
となります。
こちらも、会社と本人とが折半負担です。
なお、「標準賞与額」の上限は、
・健康保険は年度単位で573万円(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額)
・厚生年金は1月あたり150万円
です。
60歳以降継続再雇用の場合は同日得喪も 任意継続被保険者や国民健康保険料は全額自己負担
60歳からも厚生年金に入るとかかる厚生年金保険料(および健康保険料・介護保険料)を、厚生年金に入らない場合の医療保険料や国民年金に任意加入する場合の国民年金保険料と比較して、
デメリットと感じる人もいるようです。
60歳以降も高額の給料をもらう場合は保険料が高くなりますが、60歳以降給料が下がった状態で働く場合は、保険料は安くなります。
60歳以上の人が退職後給料月額が一定額以上下がった状態で同一の事業所に一日の空白もなく継続再雇用された場合は、再雇用された月分から厚生年金保険料・健康保険料が下がるような届出(同日得喪手続き)を会社が行えるようにもなっています。
また、あたりまえのことですが、保険料は、会社から受け取る給料・賞与のごく一部にすぎません。(厚生年金保険料の本人負担分は標準報酬月額や標準賞与額の9.15%。健康保険料・介護保険料の本人負担分を足しても約15%程度。)
(注1)60歳以降厚生年金に入らず、健康保険に任意継続加入する場合や国民健康保険に入る場合は、健康保険料・介護保険料は全額自己負担となります。
(注2)任意継続被保険者の保険料は、「次のいずれか少ない額×保険料率」(全額自己負担)となります。
・退職したときの標準報酬月額
・入っている健康保険制度の全被保険者平均の標準報酬月額
全国健康保険協会(協会けんぽ)の全被保険者平均の標準報酬月額は現在28万円です。
(注3)国民健康保険料はお住いの市区町村、前年の所得、加入者数などによって異なります。
デメリット2:年金額・給料額によっては年金が支給停止(カット)されます。
厚生年金に入って働き、一定額以上の給料をもらっている間は、65歳までの特別支給の老齢厚生年金や65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)は、
カット(支給停止)されて、もらえなくなります。
この給料と年金との調整のしくみ(「在職老齢年金」制度といいます)の概要は、次の通りです。
65歳までの特別支給の老齢厚生年金・在職老齢年金
・年金月額と給料月額とを足して28万円以下なら、年金は全額もらえる。
・年金月額と給料月額とを足して28万円を超えたら、超えた分の半分だけ年金がカットされる。
つまり、年金カット額(月額)=(年金月額+給料月額-28万円)÷2
算出された年金カット額(月額)≧年金月額となったら、年金はまったく支給されません。
(注)65歳までの年金カット額の計算式は年金月額と給料月額との組み合わせにより、4通りの計算式が定められています。
しかし、実際は、上記の計算式だけを用いて年金カット額を計算すれば、OKです。
65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)・在職老齢年金
・年金月額と給料月額とを足して46万円以内なら、年金は全額もらえる。
・年金月額と給料月額とを足して46万円を超えたら、超えた分の半分だけ年金がカットされる。
つまり、年金カット額(月額)=(年金月額+給料月額-46万円)÷2
算出された年金カット額(月額)≧年金月額となったら、老齢厚生年金(報酬比例部分)はまったく支給されません。
在職老齢年金とボーナス(賞与)
なお、65歳までの年金も、65歳からの年金も、月額の給料以外に賞与も受けている場合は、賞与も含めて年金カット額を計算します。
支給停止(カット)された年金は戻ってこない
65歳までの年金カットも、65歳からの年金カットも、いったんカットされた年金を後からもらうことは絶対にできません。
退職したり、65歳や70歳といった節目年齢を迎えたときに、それまでカットされていた分の年金を全部返してもらえる、と誤解している人もいます。
年金がカットされている間も毎月給料から厚生年金保険料が引かれますので、そのような誤解をする人が多いのだと思います。
しかし、給料との調整でカットされた分の年金はカットされたままで、戻ってくることはありません。十分ご注意下さい。
給料との調整で年金がカットされることを、厚生年金に入らなければ年金がカットされないことと比較して、デメリットと感じる人もいるようです。
ただ、給料との調整による年金カットのデメリットは、年金をもらいながら一定額以上の給料で厚生年金に入って働いている間だけ発生するものです。
多くのサラリーマンの場合、このデメリットは、特別支給の老齢厚生年金をもらっている間だけ(64歳支給開始の人なら64歳から65歳になるまでの1年間だけ)のデメリットとなります。
(65歳以降も厚生年金に入って働く場合でも、65歳からの年金カットのしくみは、基準額が46万円ととても緩やかなため。)
60歳以降特別支給の老齢厚生年金をもらうまでの無年金期間においては、厚生年金に入っていたとしてもこのデメリットは発生しません。
そして、60歳以降の厚生年金加入記録は、65歳からの年金額増額に反映します。
また、65歳までの、給料との調整による月あたりの「最大損害額」は、「特別支給の老齢厚生年金の年金額÷12」に過ぎません。
年金一部カットで済むような給料をもらう場合は、「損害額」はもっと少なくなります。
厚生年金に入って年金額以上の給料を受け取るのであれば、デメリットとは言えないと思います。
年金カットを逃れるためだけに、厚生年金適用事業所以外の個人の事業所に転職したり、自身が個人事業主・フリーランスとなって働くことは避けた方がよいです。
特に、自身が個人事業主・フリーランスとなると、厚生年金・健康保険・雇用保険だけでなく、労災保険の補償もなくなりますので、注意しましょう。
デメリット3:会社勤務の子どもなどの扶養には入れなくなります。
60歳定年後厚生年金・健康保険に入らない場合の医療保険の選択肢としては、次の3つがあります。
1.それまで入っていた健康保険制度に自分で任意継続加入する。
(最長2年間入れます。)
退職日の翌日から20日以内に申出を行うなどの要件があります。
2.国民健康保険に入る
3.会社勤めをして厚生年金・健康保険に入っている子どもや配偶者などの被扶養者となる
(注)一部の健康保険組合では、「特例退職被保険者」という制度もあります。
60歳以上で被扶養者になるためには、今後の見込み年収が原則として被保険者(健康保険に入っている配偶者や子ども)の半分以下で、
かつ、180万円未満となる必要があります。(年収には給料、年金、雇用保険の失業給付、その他の収入も含みます。)
ただし、60歳以降厚生年金に入って働いている間は、年収が180万円未満であっても、自分が会社の健康保険に入ることとなり、
配偶者や子どもの入っている健康保険の被扶養者となることはできません。
このことを厚生年金に入るデメリットと感じる人がいるかもしれません。
しかし、給料やその他の収入を合わせて年収180万円以上となる人の場合は、厚生年金に入らなくてもどのみち健康保険の被扶養者にはなれないわけですから、
厚生年金に入るメリットとも言えません。