2019年11月14日の社会保障審議会年金部会では、「これまでの議論を踏まえてさらにご議論いただきたい事項」として、次の二点が議論されました。
1.被用者保険の適用事業所の範囲の見直し
2.在職老齢年金制度の見直し
経営者層の関心の高い2.在職老齢年金制度の見直しについては、既に10月9日の年金部会で、厚生労働省から次の見直し案が示されていました。
【65歳からの年金と給与の調整について】
1.現行の基準額47万円を62万円に引き上げ
2.完全撤廃
【65歳までの年金と給与の調整について】
1.現行の基準額28万円のまま
2.65歳からの基準額と同額に引き上げ
しかし、高齢者への給付増・将来世代の年金の所得代替率低下につながる点などが批判を浴びていました。
そんな中、11月14日の年金部会において、厚生労働省から次のような見直し案が提示されました。
【65歳からの年金と給与の調整について】
・現行の基準額47万円を51万円に引き上げ
51万円という数字は、現役男性被保険者の平均月収(ボーナスを含む)(43.9万円)と、65歳以上の在職受給権者全体の老齢厚生年金(報酬比例部分)月額(7.1万円)の合計額です。
実現すれば、現役世代の平均的な賃金収入と平均的な年金収入がある人は年金が支給停止とならないようになります。
したがって、老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金についても繰下げ受給のメリットを完全に受けることができるようになります。
65歳までの年金の基準額が47万円の現在、年金が支給停止となっている人は在職受給権者の約17%(約41万人)ですが、
基準額を51万円に引き上げても年金が支給停止となるのは、在職受給権者の約13%(約32万人)とのことです。
経営者層の多くは、現状と同様支給停止となると思われます。
【65歳までの年金と給与の調整について】
1.現行の基準額28万円を51万円に引き上げ
2.現行の基準額28万円を、現行の65歳からの基準額と同額の47万円に引き上げ
65歳からの基準額については51万円とする案だけが提示されましたが、65歳までの基準額については、51万円・47万円の二つの案が提示されました。
65歳までの基準額が28万円の現在、年金が支給停止となっている人は在職受給権者の約55%(約67万人)ですが、
基準額を51万円に引き上げた場合に年金が支給停止となるのは、在職受給権者の約14%(約17万人)、
基準額を47万円に引き上げた場合に年金が支給停止となるのは、在職受給権者の約17%(約21万人)とのことです。
いずれに改定されたとしても、経営者層の多くはやはり支給停止となります。
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565932.pdf
65歳以降の在職老齢年金制度が就業を抑制しているという客観的な調査結果がみられない中、65歳以降の基準額を引き上げることは慎重に検討すべき、との意見もみられます。
引き続き今後の動向が注目されます。
また、1.被用者保険の適用事業所の範囲の見直しでは、厚生労働省より次の見直し案が提示されました。
・健康保険・厚生年金保険の非適用業種のうち、個人の士業事務所を適用業種とすることを検討する。
現在、次の業種は健康保険・厚生年金保険の非適用業種ですので、個人事業であれば、従業員が何人いても健康保険・厚生年金保険は任意加入となっています。
・第一次産業(農林水産業等)
・接客娯楽業(旅館、飲食店等)
・法務業(弁護士、税理士等)
・宗教業(寺院、神社等)
・サービス業(飲食店・理美容店)
このうち、士業事務所(弁護士・司法書士・行政書士・土地家屋調査士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・公証人・海事代理士)について、非適用業種ではなく適用業種とすることを検討する、とのことです。
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565930.pdf