60歳からの働き方

60歳定年後何歳まで働くかによって老齢厚生年金受給額・雇用保険給付額・厚生年金保険料負担額はどう変わるのか

サラリーマンの60歳からの働き方と年金・雇用保険・保険料負担の関係

もうすぐ60歳となる会社員の方にとって、60歳(定年年齢)後の働き方をどうするかは大きな関心事だと思います。

会社が定年退職者向けに行う年金・雇用保険・健康保険・退職金などに関するセミナーや説明会に参加して話を聞き、もらった本を読んでみても、色々な制度が複雑でなかなか一度では理解ができない方も多いのではないでしょうか。

定年退職者向けに年金・雇用保険・健康保険・税金などの情報をまとめたムック本もたくさん販売されていますが、どの項目がご自分の場合に関係があり、どの項目は関係がないのかを判断するためには、実はかなりの専門知識が必要です。

購入した書籍を途中まで読んでみたけれど、結局わからなかったという声を耳にすることも多いところです。

多くの方が定年前にお知りになりたいことは次のようなことだと思います。

●60歳からも働いた方が得なのか
●何歳まで働くのが得なのか(年金がもらえる年齢まで働くのが得なのか、65歳まで働くのが得なのか)
●60歳からも働くと、年金や雇用保険からの給付はいくらもらえるのか
●60歳からも働くと、厚生年金保険料や雇用保険料はいくらかかるのか

そこで、60歳定年を間近に迎える会社員の方向けに、簡単な事例を用いてポイントを解説してみたいと思います。

60歳定年後再雇用されて働く会社員の年金・雇用保険 比較例(ハローワークを通じた求職活動を行わない場合)

大学卒業後就職し同じ会社に就職した60歳男性のAさん、Bさん、Cさん。
(昭和32年4月2日~昭和34年4月1日生まれ)
直近の報酬月額は3名とも40万円。
ねんきん定期便記載の老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額100万円。

・Aさんは65歳まで報酬月額24万円で勤務(厚生年金・雇用保険加入)

・Bさんは63歳まで報酬月額24万円で勤務(厚生年金・雇用保険加入)

・Cさんは60歳で定年退職

現状では定年年齢が60歳の企業が多く、定年後はそれまでの経験を活かしつつも勤務時間を減らす形で同じ会社に再雇用され、60歳前の給与月額の6割程度の給与を受けながら嘱託従業員等として厚生年金保険・雇用保険に加入しながら働く方が多いと思われますので、そのような事例を用いて解説します。

3名とも退職後はハローワークを通じた求職活動をしない場合でまずは試算してみます。

もらえる年金・高年齢雇用継続給付の累計額の比較

まずは、60歳までしか働かないCさん、63歳まで働くBさん、65歳まで働くAさんがそれぞれ63歳まで・65歳まで・70歳まで・80歳までの間に、合計いくら年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)や雇用保険からの高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)をもらえるのかをみていきましょう。
(年金額は概算です。)

63歳まで 65歳まで 70歳まで 80歳まで
年金累計額 0円 118万円 1,048万円 2,908万円
Aさん 雇用保険累計額 130万円 216万円 216万円 216万円
合計累計額 130万円 334万円 1,264万円 3,124万円
年金累計額 0円 210万円 1,125万円 2,955万円
Bさん 雇用保険累計額 130万円 130万円 130万円 130万円
合計累計額 130万円 340万円 1,255万円 3,085万円
年金累計額 0円 200万円 1,090万円 2,870万円
Cさん 雇用保険累計額 0円 0円 0円 0円
合計累計額 0 200万円 1,090万円 2,870万円

63歳から老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)、65歳から老齢基礎年金・老齢厚生年金がもらえる

*三名とも65歳から老齢基礎年金を年額約78万円もらえます

*Aさんの老齢厚生年金は、63歳から年額105万円、65歳から年額108万円です。
(63歳まで厚生年金に加入して働く分だけ、63歳からの年金額が増えます。
また、63歳から65歳までも厚生年金に加入して働く分だけ、65歳からの年金額が増えます。)

*Bさんの老齢厚生年金は、63歳から年額105万円
(63歳まで厚生年金に加入して働く分だけ、63歳からの年金額が増えます。)

*Cさんの老齢厚生年金額、63歳から年額100万円
(60歳からは厚生年金に加入しないため、年金額は100万円のままです。)

*Aさんの年金累計額は、在職老齢年金制度による支給停止分および高年齢雇用継続基本給付金との調整による支給停止分を差し引いた後の年金支給額の累計額です。

Aさんは、特別支給の老齢厚生年金がもらえる年齢(63歳)から65歳になるまで厚生年金・雇用保険に加入して働きます。
厚生年金に加入して働いている間は、報酬比例部分の年金額と報酬・賞与(標準報酬月額・標準賞与額)との調整のしくみによって、年金が支給停止となります。

・65歳までの年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額+総報酬月額相当額-28万円)÷2
={特別支給の老齢厚生年金の年金額÷12+(標準報酬月額+その月以前の1年間の標準賞与額の総額÷12)-28万円}÷2

・65歳からの年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額+総報酬月額相当額-46万円)÷2
={特別支給の老齢厚生年金の年金額÷12+(標準報酬月額+その月以前の1年間の標準賞与額の総額÷12)-46万円}÷2

(上記計算式中の28万円、46万円という基準額は年度によって1万円単位で変わることがあります。)

*Bさんは63歳までで退職しますので、年金をもらいながら働く期間がありません。
したがって、在職老齢年金制度の対象となる期間はありません。

*Cさんは60歳までで退職しますので、やはり年金をもらいながら働く期間がありません。
したがって、在職老齢年金制度の対象となる期間はありません。

以上、年金額は概算額です。個別ケースにより年金額は異なりますので、目安としてご参考になさってください。
「加給年金額」は省略しています。
(注)加給年金額:原則20年以上厚生年金に加入した人に生計を維持している65歳未満の配偶者や原則高校卒業までの子がいる場合に、原則65歳からの老齢厚生年金に追加して支給される扶養手当のような年金

 

雇用保険加入で働いていると最高65歳まで高年齢雇用継続基本給付金がもらえる 賃金月額が60歳時の61%未満に低下なら最高の15%支給

*上記表中の「雇用保険累計額」とは:60歳以上65歳未満の間支給される高年齢雇用継続基本給付金の累計額

60歳になった時の賃金月額(40万円)に比べて、75%未満に賃金月額が下がっている場合に、雇用保険から「高年齢雇用継続基本給付金」がもらえます。
(60歳時の賃金月額の61%未満に賃金月額が低下しているときに高年齢雇用継続基本給付金は最高の15%がもらえます。)

*Aさんは60歳の時の賃金月額(40万円)に比べて、60歳からの賃金月額が24万円と60%に下がっていますので、雇用保険から高年齢雇用継続基本給付金が最高限度の15%もらえます。

・高年齢雇用継続基本給付金(月額)=現在の賃金月額24万円×15%=36,000円
(この給付金は非課税です。)

ただ、雇用保険から36,000円もらえる代わりに、上記の在職老齢年金による支給停止に加えてさらに年金が支給停止となります。

・さらに年金が支給停止となる金額(月額換算額)=現在の標準報酬月額24万円×6%=14,400円

雇用保険で使う「賃金月額」と厚生年金で使う「標準報酬月額」とでは、実際の金額が異なることがありますが、まずは両者の違いをあまり気にせずに、大まかなしくみを理解してください。

60歳時の給与月額に比べて6割の給与月額に下がっているAさんの場合、給与の15%相当を雇用保険からもらえ、給与の6%相当分だけ年金がカットされても、差引で給与の9%相当分は残る、という程度のとらえ方でまずは問題ないです。

この高年齢雇用継続基本給付金は、定年後そのまま再雇用で雇用保険に加入して働いている場合、最高65歳までもらえます。

Aさんは65歳まで働くため、60歳までの5年間この給付金をもらえます。

*Bさんは63歳までしか働きませんので、63歳までしかこの給付金をもらえません。

 

60歳以降払う厚生年金保険料累計額・雇用保険料累計額の比較

60歳以降働く方が年金も雇用継続給付ももらえるから得だ、といっても、働いている間は保険料がかかるから結局損なのでは?
という質問を受けることも多いです。

そこで、3名の60歳以降の厚生年金保険料・雇用保険料の負担額累計の差を確認してみましょう。
(厚生年金保険料・雇用保険料とも被保険者負担分です。雇用保険料は、建設業や農林水産業以外の一般の事業の場合の試算です。)

63歳まで 65歳まで
厚生年金保険料累計額 790,560円 1,317,600円
Aさん 雇用保険料累計額 25,920円 43,200円
合計累計額 816,480 1,360,800
厚生年金保険料累計額 790,560円 790,560円
Bさん 雇用保険料累計額 25,920円 25,920円
合計累計額 816,480 816,480
厚生年金保険料累計額 0円 0円
Cさん 雇用保険料累計額 0円 0円
合計累計額 0 0

当然ですが、65歳まで働くAさんの合計累計額が最も多く1,368,000円です。
次に63歳まで働くBさんの合計累計額が816,480円です。

60歳以降働かないCさんはもう厚生年金保険料・雇用保険料負担はありません。

BさんはCさんよりも3年間で約82万円多く厚生年金保険料・雇用保険料を負担します。
そして、BさんはCさんより80歳までに215万円多くの年金をもらえます。

AさんはBさんよりも3年間で約54万円多く厚生年金保険料・雇用保険料を負担します。
そして、AさんはBさんより80歳までに39万円多くの年金をもらえます。
2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性87,14歳です。
この事例では、81歳まで生きていれば、AさんはBさんよりも余分に負担した保険料以上の年金をもらうこととなります。

もっとも、80歳で亡くなったとしても、Aさんは65歳まで、Bさんは63歳まで給与24万円を毎月もらっていたわけですから、Aさんの方が手元に入るお金の累計は多くなります。

厚生年金保険料の被保険者負担分は給与(標準報酬月額)×9.15%です。(平成30年度現在)
賞与を受けた場合は、賞与(標準賞与額)×9.15%の厚生年金保険料もかかります。

雇用保険料率(労働者負担部分)は賃金総額×0.3%です。(平成30年度)

その他、厚生年金保険料とともに健康保険料もかかります。
協会けんぽ(全国健康保険協会)の40歳以上65歳未満の被保険者の健康保険料(介護保険料を含む。被保険者負担分)は、5.735%です。(平成30年度。東京都の場合。)

要するに、厚生年金・健康保険・雇用保険に加入する形で働いていると、65歳までは給与の約15%程度の社会保険料を天引きされるということです。

15%といえば大きいですが、あくまでも15%です。
給与の15%の保険料を負担するに過ぎません。

働いている間は会社も同額の厚生年金保険料・健康保険料を負担してくれることとなります。
会社負担の雇用保険料率は0.6%と、被保険者負担分の倍です。

給与月額が6割に下がっても、働ける間は長く働く方が、一般的にはよいと思われます。

定年後再雇用で、厚生年金・雇用保険に加入しないで働き続ける場合はどうなる?

例えば、週2日のみアルバイトで働く場合(厚生年金にも雇用保険にも加入しない場合)は、
・雇用保険料・厚生年金保険料・健康保険料はかかりません。(健康保険料は任意継続被保険者となる、国民健康保険に加入する、家族の被扶養者となる等する必要があります。)
・高年齢雇用継続給付はもらえません。
・年金額はもう増えません。

定年後再雇用で、雇用保険には加入し、厚生年金には加入しないで働き続ける場合はどうなる?

雇用保険のみ加入が必要で厚生年金には加入しないでよいような働き方をする場合は、
・雇用保険料のみかかり、厚生年金保険料・健康保険料はかかりません。(健康保険料は任意継続被保険者となる、国民健康保険に加入する、家族の被扶養者となる等する必要があります。)
・60歳以上65歳未満の間で、高年齢雇用継続基本給付金をもらえます。(60歳時の賃金月額の75%未満に低下等の要件を満たす場合)
・年金額はもう増えません。

(注)従業員500人以下企業で社会保険加入に関する労使合意がない場合は、
1週の所定労働時間
または
1月の所定労働日数が
常時雇用者の4分の3未満であれば、厚生年金・健康保険に加入させなくてもよいこととなっています。

一方、雇用保険は、
31日以上の雇用の見込があって、
1週間の所定労働時間が20時間以上であれば、
被保険者となります。

ですから、労使合意のない従業員500人以下企業(正社員の週所定労働時間40時間)で雇用期間1年で週20時間働く人の場合などは、雇用保険の被保険者にはなり、厚生年金・健康保険の被保険者にはなりません。

 

ハローワークを通じて求職活動を行う場合にもらえる基本手当や高年齢求職者給付金と特別支給の老齢厚生年金・老齢厚生年金

以上、60歳定年後にハローワークを通じた求職活動を行わない場合で、
・60歳まで働く
・63歳まで働く
・65歳まで働く
の3つのケースにおける年金額・雇用保険給付金額の累計額を比較しました。

おおざっぱにいうと、厚生年金・雇用保険に加入している期間が長いほど合計累計額が増える、といえます。

それでは、Aさん、Bさん、Cさんが退職後、さらに働きたいと考えてハローワークに求職の申込みをして求職活動をするとしたらどうなるでしょうか。

この場合は、失業日数について、いわゆる“失業保険”(「求職者給付」)をもらえることとなります。

ざっくりいえば、65歳になるまでに求職の申込みをした人がもらう一般的な失業給付が「基本手当」で、
65歳になってから求職の申込みをした人がもらう失業給付が「高年齢求職者給付金」です。

それぞれの給付について知っておきたいポイントだけまとめると、次の通りです。

雇用保険の基本手当

20年以上雇用保険に加入して、定年等で離職した場合、基本手当がもらえる最高日数(所定給付日数)は150日です。
基本手当をもらう期間は原則として1年間です。
1年間の間に150日を限度として、「失業」していた日について基本手当日額が支給されます。

1.「基本手当日額」を計算するためには、まず「賃金日額」を計算します。

賃金日額=離職前最後の6か月の賃金の総額÷180
(臨時に支払われる賃金や3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まずに計算します)

離職日において60歳以上65歳未満の人の賃金日額の上限額は15,740円です。
年齢によらず賃金日額の下限は2,480円です。
(以上平成30年8月現在。毎年8月に変更されます。下記参照)
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000334236.pdf

2.「賃金日額」を基に「基本手当日額」を計算します。

離職時の年齢が60歳以上65歳未満の人の基本手当日額は次のように算出されます。

賃金日額が2,480円以上4,970円未満→基本手当日額=賃金日額×80%
賃金日額が4,970円以上10,980円未満→基本手当日額=賃金日額×80~45%
賃金日額が10,980円超15,740円以下→基本手当日額=賃金日額×45%
賃金日額が15,740円(上限額)超→基本手当日額7,083円(上限額)

 

*Cさんが60歳から求職活動を行う場合は+約90万円。(雇用保険の基本手当)

*Bさんが63歳から求職活動を行う場合は+約28万円。(雇用保険の基本手当-基本手当受給中の年金支給停止分)
雇用保険の基本手当をもらう間は、特別支給の老齢厚生年金(65歳までの間支給される年金)は支給停止となります。
(基本手当と特別支給の老齢厚生年金とは両方はもらえません。通常は基本手当の方が額が多くなります。
基本手当日額を確認したい場合は、離職証明書を持ってハローワークで「求職の申込み」をしないで、照会してみてください。)

*Aさんが65歳直前で退職し65歳から求職活動を行う場合は+約72万円(雇用保険の基本手当)
(65歳になる前に退職した場合は、高年齢求職者給付金ではなく基本手当がもらえます。
基本手当と65歳からの老齢厚生年金は両方もらうことができます。)

 

雇用保険の高年齢求職者給付金

*Aさんが65歳から求職活動を行う場合は+約26万円(雇用保険の高年齢求職者給付金)
雇用保険に1年以上加入・65歳以上の人が離職した場合の高年齢求職者給付金の支給額は、基本手当日額×50日分です。
(一時金として支給されます。)

離職時の年齢が65歳以上の人が高年齢求職者給付金を受給する場合の基本手当日額は次のように算出されます。

賃金日額が2,480円以上4,970円未満→基本手当日額=賃金日額×80%
賃金日額が4,970円以上12,210円未満→基本手当日額=賃金日額×80~50%
賃金日額が12,210円超13,500円以下→基本手当日額=賃金日額×50%
賃金日額が13,500円(上限額)超→基本手当日額6,750円(上限額)

高年齢求職者給付金と老齢厚生年金は両方もらえます。

 

“失業保険”(求職者給付)における「失業」とは

雇用保険の基本手当や高年齢求職者給付金などの求職者給付をもらう人は、前提として「失業」している必要があります。

雇用保険における「失業」とは、
1.雇用保険の被保険者が離職し、
2.労働の意思および能力を有するにもかかわらず、
3.職業に就くことができない状態にある
ことをいいます。

一定期間会社雇用保険に加入した人が会社を退職した、というだけでは雇用保険の基本手当や高年齢求職者給付金をもらう要件を満たしてはいません。
ご注意ください。

雇用保険法上も、
「求職者給付の支給を受ける者は、必要に応じ職業能力の開発及び向上を図りつつ、
誠実かつ熱心に求職活動を行うことにより、職業に就くように努めなければならない。」
と定められているところです。

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