「経済財政運営と改革の基本方針2019について」が令和元年6月21日閣議決定されました。
いわゆる「骨太の方針」というものです。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/2019_basicpolicies_ja.pdf
この中で、今後の年金改革の方向性について定めた箇所のみ抜粋してポイントをまとめてみます。
まずは、「全世代型社会保障への改革」というタイトルで、「70歳までの就業機会確保」について次のように決定されました。
長いですので、お時間のない場合は、最後の(年金制度との関係)のところだけ目を通しておいていただくとよいでしょう。
(太字は引用者が付したものです。)
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(多様な選択肢)
・人生100年時代を迎え、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高齢者の活躍の場を整備することが必要である。
・高齢者の雇用・就業機会を確保していくには、70歳までの就業機会の確保を図りつつ、65歳までと異なり、それぞれの高齢者の特性に応じた活躍のため、
とり得る選択肢を広げる必要がある。
・このため、65歳から70歳までの就業機会確保については、多様な選択肢を法制度上整え、当該企業としては、そのうちどのような選択肢を用意するか、
労使で話し合う仕組み、また、当該個人にどの選択肢を適用するか、企業が当該個人と相談し、選択ができるような仕組みを検討する。
法制度上整える選択肢のイメージは、
(a)定年廃止
(b)70歳までの定年延長
(c)継続雇用制度導入(現行65歳までの制度と同様、
子会社・関連会社での継続雇用を含む)
(d)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への
再就職の実現
(e)個人とのフリーランス契約への資金提供
(f)個人の起業支援
(g)個人の社会貢献活動参加への資金提供
が想定し得る。
・企業は(a)から(g)の中から当該企業で採用するものを労使で話し合う。それぞれの選択肢の具体的な検討に当たっては、各選択肢における企業が負う責務の程度など、企業の関与の具体的な在り方について、今後慎重に検討する。
(第一段階の法制整備)
・70歳までの就業機会の確保を円滑に進めるためには、法制についても、二段階に分けて、まず、第一段階の法制の整備を図ることが適切である。
・第一段階の法制については、法制度上、上記の(a)~(g)といった選択肢を明示した上で、70歳までの就業機会確保の努力規定とする。
また、必要があると認める場合は、厚生労働大臣が、事業主に対して、個社労使で計画を策定するよう求め、計画策定については履行確保を求める。
(第二段階の法制整備)
・第一段階の実態の進捗を踏まえて、第二段階として、現行法のような企業名公表による担保(いわゆる義務化)のための法改正を検討する。
この際は、かつての立法例のように、健康状態が良くない、出勤率が低いなどで労使が合意した場合について、適用除外規定を設けることについて検討する。
(提出時期及び留意点)
混乱が生じないよう、65 歳(現在63 歳。2025 年に施行完了予定)までの現行法制度は、改正を検討しないこととする。
手続的には、労働政策審議会における審議を経て、2020年の通常国会において、第一段階の法案提出を図る。
(年金制度との関係)
・70 歳までの就業機会の確保に伴い、現在 65 歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行わない。
・現在60 歳から70 歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始の時期については、70 歳以降も選択できるよう、その範囲を拡大する。
・在職老齢年金制度について、公平性に留意した上で、就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ、社会保障審議会での議論を経て、
速やかに制度の見直しを行う。
・このような取組を通じ、就労を阻害するあらゆる壁を撤廃し、働く意欲を削がない仕組みへと転換する。
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70歳以降への繰下げも選択できる制度の創設、在職老齢年金制度の見直しについて決定されているのが注目すべき点です。
ただ、上記の内容からわかる通り、年金受給世代の労働者の就労を阻害している点を改正し、働く意欲を削がないようにすることが、改革の目的です。
例えば、65歳までの在職老齢年金の基準額を現行の28万円よりも増額する、といった改正なら改革の目的に沿っているといえるでしょう。
(もちろん、改正するためには、年金給付が増える分財源をどのようにして確保するかや、一部の世代の人たちのみを優遇することとなる点についても、
検討・議論される必要があるでしょう。)
在職老齢年金制度全体については、「将来的な制度の廃止も展望しつつ」と抑えた表現になっています。
一部の週刊誌やネット記事では、「在職老齢年金制度の廃止が決まった」とか、
「年金の支給開始年齢が68歳から(70歳から)になる」という論調で書かれた記事も多く見られますが、今年度の骨太の方針ではそこまでは決まっていないことが、原文を読めばわかります。
また、「多様な就労・社会参加に向けた年金制度改革等」として、次の通り、
厚生年金(健康保険)に加入すべき人の範囲を広げることや、
70歳を超えて繰下げできるような制度、
在職老齢年金制度の在り方の検討等について再度明記されています。
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・高齢者、女性をはじめとして多様な就労・社会参加を促進するため、勤労者が広く被用者保険でカバーされる勤労者皆社会保険制度の実現を目指して検討を行う。
・働き方の多様化に応じた年金受給開始時期の選択肢の拡大、被用者保険の適用拡大について検討を進めるなど、多様な生き方、働き方に対応した社会保障制度を目指す。
・短時間労働者に対する厚生年金保険及び健康保険の適用範囲について、これまでの被用者保険の適用拡大及びそれが労働者の就業行動に与えた影響についての効果検証を行いつつ、法案提出も含めた必要な措置を講ずる。
・高齢期における職業生活の多様性に応じた一人一人の状況を踏まえた年金受給の在り方について、高齢者雇用の動向、年金財政や再分配機能に与える影響、公平性等に留意した上で、繰下げ制度の柔軟化を図るとともに、就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ在職老齢年金の在り方等を検討し、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行う。
・また、老後の生活設計の選択を支援するため、随時ねんきん定期便等の記載を見直す。
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ここでも、在職老齢年金制度については、「就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ在職老齢年金の在り方等を検討し、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行う」と記載されているだけです。
なお、社会保障審議会年金部会におけるこれまでのところの議論についていえば、2018年11月2日に在職老齢年金について議論が行われましたが、
このときの議事録を見る限り、
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204770_00007.html
制度の「見直し」をする必要はあるかもしれないものの、すぐに制度を「廃止」する必要があるとは思わない人が多いのではないでしょうか。
(特に65歳以降の年金が在職老齢年金制度で支給停止となっている人は、経営者層や企業幹部を除いた一般サラリーマンでは少ない現状です。)
遅れている財政検証結果の公表が2019年8月頃(?)行われた後に検討・議論を経てどのような見直しがされるのか、
一般のサラリーマンだけでなく高額報酬の経営者層や企業幹部にまで影響が生じるような見直しとなるのかはまだわかりません。
今後も必要に応じて情報をお伝えするようにいたします。