在職老齢年金

在職老齢年金制度の見直し(65歳から・65歳まで)の方向が厚生労働省より提示

10月9日の第11回社会保障審議会年金部会では、「高齢期の就労と年金受給の在り方について」という議題で、次の二点について議論されました。
・在職老齢年金制度の見直し
・就労期間の長期化に対応した被保険者期間の在り方の検討

議論に先立ち厚生労働省より、65歳からの在職老齢年金制度の見直しの方向として、次の二つの案が提示されました。

1.基準額を現行の47万円から62万円に引き上げる
2.在職老齢年金制度を廃止する

また、65歳までの在職老齢年金制度の見直しの方向として、次の二つの案が提示されました。

1.現行の基準(28万円)のままとする
2.65歳からの在職老齢年金制度と同じ額に基準額を引き上げる

(参考資料)
2019年10月9日の第11回社会保障審議会年金部会 資料1
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000555792.pdf

日本経済新聞(2019年10月10日)によると、当日の年金部会では、「将来世代の給付水準の低下に留意が必要だ」との意見が相次いだそうです。

また、当日欠席の委員のうち二名からは、次のような意見を記載した書面が提出されていました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「保険料拠出を担う現役世代とのバランスを勘案する必要性がある。(中略)仮に制度改正を行うとしても、制度の全面的な撤廃ではなく、現役世代にも一定の納得感が得られるであろう範囲で、調整を行う基準額の引上げにとどめるべきと考える。(中略)

今回資料では、少なくとも在職老齢年金制度が高齢者雇用に与える影響につき、必ずしも十分な学問的裏付けが示されているとは思われず、(中略)制度の全面撤廃といったドラスティックな改正には慎重な姿勢が求められる。」

以上、菊池委員提出資料
在職老齢年金等に関する意見書 より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000555794.pdf

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「拙速に基準額の引き上げを実施する必要があるのかを検討するため、以下の点を明らかにしていただきたい。

・定年廃止が実施されると、上限は就労者にとって阻害要因にならないのではないか?
・65歳以上には、上限額が与える影響は有意でないと紹介されているにも関わらず、なぜ、65歳以上の上限額の見直しを行うのか?
・今般の見直しは、財源の確保と安定に寄与するものであるのか?
・今般の見直し案では、就労機会があり所得のあるものに対する優遇措置であり、(中略)格差を広げる可能性はないか?
・消費税が引き上げられた途端にまた大盤振る舞いがされるような誤解や悪印象を与えるのではないか?」

以上、藤沢委員提出資料
在職老齢年金制度の見直しについて より引用
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000555795.pdf
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、10月9日には、財政制度等審議会財政制度分科会も開催されました。

財務省作成の「社会保障について①(総論、年金、介護、子ども・子育て)」という当日資料においても在職老齢年金制度の見直しについて、次のように指摘されています。

・高所得者への給付を回復すると、低中所得者の給付水準は低下するため、高所得者優遇との批判が生じうることも踏まえて検討する必要がある。
・65歳以上の在老においては、年金支給停止の対象者は受給権者全体の1.5%に限られる。
・60〜64歳を対象とする在老は、厚生年金の支給開始年齢の引上げに伴い、男性は2025年、女性は2030年に自然消滅。

https://www.mof.go.jp/…/pro…/material/zaiseia20191009/01.pdf

こちらの分科会当日の様子については、日本経済新聞(2019年10月10日)では、次の通り報道されていました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
財政審では「見直すメリットがはっきりしない」「現役世代の納得感を得られるのか」など廃止を含む見直しに慎重な意見が相次いだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今後の議論・検討の成り行きが注目されます。

なお、実際に制度が改正されるためには、改正法案が国会に提出され可決される必要があります。

年末まで議論・検討を重ね、早ければ2020年の通常国会への改正法案提出が目指されているそうですが、実際にいつ・どのような改正法案が出されることとなるかは現状ではわかりません。

改正法案が提出・可決され、改正法の施行日を迎えるまでは、現状の制度のままですので、ご注意ください。

在職老齢年金基準額51万円の案が提示見込み

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年金減額「月収51万円超で」

働く高齢者巡り厚労省 62万円案修正

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(以上、2019年11月12日 日本経済新聞より引用)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52021540R11C19A1EE8000/

経営者層の関心の高い在職老齢年金制度の見直しについての新たな報道が入ってきました。

前述の通り、来年9月から厚生年金保険の標準報酬月額の上限が65万円に改定される見込みです。

その上で、もし、将来的に在職老齢年金の基準額が51万円に改定されたとしたらどうなるでしょうか。

結論から言えば、現在と同様、多くの経営者が報酬比例部分の年金は全額支給停止となります。

例えば、標準報酬月額65万円で基準額が51万円なら、報酬比例部分の年金が168万円以下(月額14万円以下)の人は全額支給停止です。

この場合、現在と同様、報酬設定を変更しない限り、働いている間は65歳からの老齢基礎年金と経過的加算部分だけしかもらえないこととなります。

11月13日の社会保障審議会年金部会で具体的な案が厚生労働省から示されましたら、また内容をお伝えいたします。

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